「Click サイクル」の形成とその意義
伝えたいこと
Click活⽤事例の分析をもとに、ノーコードがもたらす革新のパターンを「Clickサイクル」としてまとめました。あわせてノーコードの本質と意義、Clickの目指す方向性を再整理しました。
Ⅰ.Click活⽤事例を読み込む
(1)5万件のアプリ実践から
Click がサービス内容を⾒直し、ノーコードアプリ開発プラットフォームとして新スタートを切ったのが2024 年4⽉。社会全体のデジタル化、DX 課題の⾼まりもあり、この1 年たらずの間にClick をはじめとするノーコードアプリ利⽤が業務改善、新規事業創出、教育改⾰、ユーザー/市⺠参加促進など急速な広がりをみせています。
Click ではこれまで5 万件を上回るユーザー登録がなされ、企業、⾏政、NPO、社団、個⼈など数多くの現場でアプリ開発が⾏われてきました。多様な主体がアプリ開発に取り組み、デジタル⺠主化への挑戦を⾏っています。
Clickホームページに掲載されているClick活⽤事例(開発担当者インタビュー)をもとに、アプリ開発の実際について、⽬的、動機、開発プロセス、実現された価値、次への思いということで分析を⾏いました。
インタビュー記事におけるキーワード、キーフレーズを抽出、分類、整理していくと、様々な現場を起点とした「ノーコード⾰命」の基本パターンが「Click サイクル」として浮かび上がってきます。
(2)Click サイクル
Click アプリを活用した課題解決は、①現場の問題意識や“思い”があって、②ノーコードClick という選択肢にたどりつき、③主体的に開発プロセスに取り組み、④ノーコードならではの価値を実現し、⑤次への夢や展望を描く、というかたちで目的と手段が表裏一体となった5 つのステップとして進行していることがわかりました。
また、いずれの活用事例においても、①→②→③→④→⑤→①→②・・というかたちで生命的な“流れ”や要因がアプリ現場で発現し、発展ループを形成していることが注目されます。
Click サイクルは、情報技術の導入という機能的な面にとどまらず、組織文化変革、自律人材育成、ユーザーとの対話、データの分析活用、新規事業の仮説検証というかたちで活力と挑戦マインドとダイナミズムを現場にもたらしていることを示しています。
Ⅱ.「ノーコード」という思想
(1)ノーコードの原典
「Click サイクル」という視点によって、情報技術の導入という側面にとどまらず、ノーコードアプリがビジネス、社会的課題解決、地域創生など様々な変化を社会の多様な現場にもたらしていることが見えてきます。
ところで、「ノーコード」という思想はじつは1982 年に米国で刊行されたJames Martin 氏の『Application Development Without Programmers』(『プログラマーのいないアプリケーション開発』)におい提言されたものです。ノーコードの原典というべき著作です。この本は以下の10 章からなっています。半世紀前の書物に、「エンドユーザーコンピューティング」「プロトタイピング」「プログラマーの役割変化」「データベースの役割」という現代につながる概念が明確に書き込まれているのは驚きです。それと同時に、技術が社会に受容され、定着していくのには時間がかかることも教えてくれます。
(2)ノーコードの本質と意義
「Click サイクル」とJames Martin による半世紀前の「原典」を重ね合わせていくと、ノーコードアプリの本質的意味を次の4 つに集約できそうに思います。
- アプリ開発の民主化:誰でもアプリ開発者になれる可能性を秘めており、多様な人材によるアプリ開発を促進します。
- 開発コストの削減:モジュールの活用で従来の開発方法と比較して、開発期間とコストを大幅に削減できます。
- イノベーションの加速:情報システム部門と業務部門の間のコミュニケーションギャップが縮小することで、アイデアを迅速に形にし、新たなビジネスチャンスや社会課題の解決につながります。
- コミュニティの形成:アプリの利用者がB2C における「消費者」「顧客」という受動的存在から「アクター」(Actor︓参加者)に変貌し、A2A というかたちで、協働やコミュニティの担い手として活躍し始めます。それは社会での分散自律的な「プラットフォーム」の形成につながっていきます。
Ⅲ.「ノーコード」の未来創造
これまでの検討を踏まえ、「ノーコードClick」が引き続き目指す方向性を、「サービス·イノベーション」「ユーザー·エンゲージメント」「ソーシャル·プラットフォーム」として整理しておきたいと思います。
(1)サービス·イノベーション
ノーコードの可能性を広げ、社会的技術としてさらに普及していくため、新たなサービス開発と体制強化が求められます。
- カスタマイズ性の拡張:API によって、外部サービス、内部基幹システムとの連携をより容易に、より安全にすることで、カスタマイズ機能を充実させ、「手のひら」コンピューティングを高次化していくことが必要です。
- AI、NFT などWeb3 技術の組合せ:Web3 とノーコードという2 つの技術は、「分散」と「自律」という考え方において互いに共鳴、補完しあう思想をもっています。ノーコードアプリは、Web3 の技術を社会の隅々に実装、普及させていくために不可欠なツールといって差し支えありません。
- 学習プログラムの充実:ノーコードはプログラミングの専門知識が不要といっても、アプリを組み立て効果的なものにしていくためには、学習による習熟と、経験知の高度化が必要です。チュートリアル、動画、ウェビナー等、学習プログラムの充実が必須です。
(2) ユーザー·エンゲージメント
ノーコードの本質的意義はユーザー·エンゲージメント、すなわちユーザーへの権限の分散·委譲にあります。アプリケーション開発の中心的役割をプログラマーからエンドユーザーにシフトさせていくための環境整備が必要です。
- Power to the people:アプリケーション制作の喜びとワザを多くの人びとに広げていきたいと思います。
- 非エンジニアのデジタル人材化:これまでアプリケーション開発はプログラム知識をもったエンジニアによって担われてきましたが、ノーコードによるアプリケーションづくりはプログラミングの知識や経験をもたない人材がデジタル人材となりDX(デジタル変革)の担い手となっていきます。ノーコードデザイナーやノーコードディレクターといったキャリアの定義と活躍環境づくりが求められます。
- ユーザー開発を支援する新たな専門家:非エンジニアがユーザー目線でアプリケーション開発に従事する機会が増えるにともない、①アプリ開発のコーチング、②アプリ開発のプロデューサー/コンサルタント、③アプリのエレメント/モジュール開発など、ユーザー開発を支援する新たな専門家の活躍が期待されます。
(3)ソーシャル·プラットフォーム
開かれた情報ネットワーク社会に向け、「Click プラットフォーム」を「分散」と「自律」を基本に新たなデジタル社会基盤として整備していく必要性が高まっています。
- アプリ開発の民主化プラットフォーム:ノーコードは非エンジニアを巻きこみながら、自律分散的なプリ開発を広めていくことが期待されます。GAFA のサービスを活用しながら、徐々に中央独占的なGAFA 体制からの依存脱却を結果していくことが想定されます。Click はアプリ開発の「民主化」を担う「もう一つのプラットフォーム」として成長し、社会に定着していくことが期待されます。
- 共助共創のプラットフォーム:プログラミングの知識や経験をもたない人材の活躍をサポートするための環境づくりが不可欠です。開発経験者が集い、様々な質問やアドバイスが飛び交うユーザー·コミュニティの機能が重要性を増していきます。
まとめ
ノーコードプラットフォームClickの革新性は、それぞれの現場で「デジタル主人公」が育ち(=アプリ開発の民主化)、アプリ利用者がB2C における「消費者」「顧客」という受動的存在から「アクター」(Actor:協働参加者)に変貌することです。
アクターはA2Aというかたちで主体的な活動と連携をこれから繰り広げていくことでしょう。Clickサイクルを組織や地域のいたるところで回し、人間くさい新しい情報文化をつくっていきましょう。
東京大学工学研究科都市工学専攻を修了の後、公益財団法人九州経済調査協会や九州大学において長年、地域調査や産業政策・地域政策の立案に従事するとともに、数多くのまちづくりに参画している。